ドガ

赤い衣裳をつけた三人の踊り子

■解説
印象派の画家たちのなかで、エドガー・ドガ(1834-1917)は、おそらく最も正統的な絵画教育を受けたひとりと言ってよいであろう。 彼は、パリの豊かな中産階級の家に生まれ、国立美術学校に学び、20歳の時にはイタリアに旅行して、ラファエルロをはじめ、ルネッサンスの巨匠たちの作品を研究して、古典的な絵画技法をしっかりと身につけた。 この点では、例えばポール・セザンヌやクロード・モネなどのように、ほとんど独学で自己の画風を作り上げた仲間たちとは、大きく違っていた。 しかしながら、ドガは決して伝統的な保守主義者ではなかった。 彼はジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルを深く尊敬し、またレオン・ボナのような官学派の代表的画家とも親しかったが、彼自身は公式の絵画に飽き足らず、1874年の第一回グループ展以来、しばしば印象派の仲間たちの展覧会に参加している。
ドガの新しさは、何よりも、当時大きく変わりつつあったパリという都会の現実を、鋭い観察眼と的確な技法によって捉えた点にあると言えよう。 例えば、街角のカフェ、オペラ座の舞台や稽古場、競馬場、ミュージック・ホールやサーカス場などが、彼のその観察の対象となった。 特にバレーの踊り子と競馬場の馬とは、彼が好んで取り上げた主題で、さまざまに変化するその活発な動きを、見事なデッサンカで繰り返し描いている。 ということは、これらの対象に対する彼の興味が、単に風俗的なものではなく、運動するものの瞬間の姿の把握にあったことをよく示している。 事実、踊り子のモティーフにしても、舞台で華やかに喝采を浴びている様子から稽古場の片隅でひと休みしているところまで、その範囲はきわめて多様であるが、いずれの場合でも、踊り子の姿態は、決定的瞬間を誤りなく捉えている。 おそらくは舞台の袖で出を待っている三人の踊り子を描いたこのパステル画においても、何気ないポーズのなかにその場の雰囲気まで的確に表現してみせる鋭敏な観察力がはっきりとうかがわれる。 ドガが、当時登場したばかりの写真に強い関心を寄せていたことも、決して偶然ではないのである。
 晩年のドガは、視力を痛めて、油絵よりもむしろ明るい色彩のパステルを多く試みたが、そのほかに、やはり馬や踊り子を主題とする彫刻も数多く残している。 優れたデッサンの名手であり、冷徹な観察者でもあった彼は、生涯、ダイナミックな運動感の表現を追求したと言ってよい。

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