
■解説
アンリ=マリー=レーモン・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)は、南フランスの由緒ある伯爵家に生まれました。
少年時代の2度にわたる事故で両足を骨折したことがもとで、下半身の成長が止まってしまったロートレックは、絵画に専心するようになります。
1880年代にはパリに出て、当時若い芸術家が集まったモンマルトルに住み着きました。そのころのモンマルトルは、キャバレー、ミュージックホールなどでにぎわう大歓楽街でした。
ロートレックは、描く対象の動きやかたちをとらえることに非常に優れていて、その卓抜なデッサン力で、夜の世界で生活する人々の様相を描きました。
歌手、芸人などの特徴をみごとにとらえたポスターは、いまなお、当時の息づかいを生々しく伝えています。
ロートレックは、ポスターの分野で活躍するいっぽうで、多くの油絵も制作しました。
この「マルトX夫人」は、彼の晩年の作品です。ロートレックは、過度の飲酒によりこわれた体を休めるため訪れた南フランスのボルドーで、この絵を描きました。
ゆったりと椅子に座る女性の表情、身につけた衣服は陰影に富み、深い存在感をたたえています。